
「宇宙をテーマにした有名な絵画にはどんなものがあるの?」そんな疑問を持つ方のために、時代ごとに代表的な作品を紹介します。
宇宙は古くから人類の興味を引きつけ、17世紀の科学革命から現代の宇宙探査に至るまで、多くの画家たちが宇宙をテーマにした作品を残してきました。
本記事では、
- ヨハネス・フェルメール
- ジョゼフ・ライト
- ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
- チェスリー・ボンステル
- NASAアートプログラム
この5つの絵画を取り上げ、それぞれの特徴や背景をわかりやすく解説します。
1.ヨハネス・フェルメールの『天文学者』(1668年頃)

ヨハネス・フェルメール, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
科学と芸術の融合――フェルメールの描いた「宇宙」
17世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメールは、静かで穏やかな光が差し込む室内画で有名です。そんな彼が描いた珍しい科学のテーマの絵画が『天文学者』(1668年頃)です。
この絵に登場するのは、机に向かいながら天球儀(星座が描かれた球体)を見つめる男性。
彼はまるで宇宙の秘密を探求しているように見えます。
彼の横には、分厚い本や計測器具が置かれていますが、その中にはアストロラーベ(天体観測に使われる古い道具)もあります。
これは当時の科学者や航海士にとって、とても重要な道具でした。
フェルメールと科学の世界
実は、この作品は当時の科学革命の影響を受けています。
17世紀は、ガリレオ・ガリレイやヨハネス・ケプラーといった天文学者が活躍し、天体の観測が急速に発展した時代でした。
フェルメールも、科学的な探求をする人々に興味を持ち、このようなテーマを絵にしたと考えられています。
また、この作品には、もう一つの面白いポイントがあります。
それは、フェルメールのもう一つの作品『地理学者』と対になっているということです。

ヨハネス・フェルメール, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
『地理学者』では地図を広げて地球を探求する姿が描かれ、『天文学者』では宇宙を探求する姿が描かれています。
これは「地球と宇宙」という二つの世界を対比する意図があったのではないかとも言われています。
ルーヴル美術館で見られる名作
現在、この作品はフランスのルーヴル美術館に所蔵されています。
もし旅行でルーヴル美術館に行く機会があれば、フェルメールの静かな光の表現と、宇宙を探求する学者の姿をじっくり観察してみるのも面白いでしょう。
2.ジョゼフ・ライトの『太陽系儀の講義』(1766年)

ジョセフ・ライト, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
光と宇宙の神秘を描いた傑作
ジョゼフ・ライトは18世紀イギリスの画家で、科学と芸術を融合させた作品を多く描いたことで知られています。
その代表作の一つが、1766年に描かれた『太陽系儀の講義』です。
この絵には、「オリュレリー(太陽系儀)」と呼ばれる装置を使って、天文学の講義をしている様子が描かれています。
オリュレリーは、太陽の周りを回る惑星の動きを再現する模型で、当時の天文学者たちが宇宙の仕組みを説明するのに使っていました。
絵の中心では、まるで本物の太陽のように光を放つオリュレリーがあり、その光を囲むように大人や子供が熱心に話を聞いています。
科学革命と天文学の発展
18世紀は、「啓蒙時代」と呼ばれ、科学や哲学が大きく発展した時代です。
この時代、人々は宗教的な考え方から離れ、自然の法則を学び、科学的に世界を理解しようとしました。
ニュートンの「万有引力の法則」やコペルニクスの「地動説」などが普及し、宇宙についての知識も広がっていきました。
ジョゼフ・ライトは、そんな科学革命の流れに影響を受け、このような「科学をテーマにした絵」を描いたのです。
彼の作品は、「科学がもたらす感動」を伝えるものとして評価されています。
「光の演出」が生む神秘的な雰囲気
この作品のもう一つの特徴は、光と影の表現です。
まるで劇場のように、絵の中心にある光が周囲を照らし、観客の顔にドラマチックな陰影を作り出しています。
これは「キアロスクーロ(明暗のコントラスト)」という技法で、ルネサンスの巨匠カラヴァッジョの影響を受けたものです。
ライトはこの技法を使い、科学の神秘や宇宙の驚異を表現しました。
まるで私たち自身もその場にいて、天文学の講義を受けているかのような感覚になる作品です。
ダービー美術館に展示されている
この作品は現在、イギリスのダービー美術館に所蔵されています。
ダービーはジョゼフ・ライトの故郷でもあり、彼の作品を多く収蔵している美術館です。
3.ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの『星月夜』(1889年)
(画像:楽天)
宇宙と心の世界が交差する名画
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(1853-1890)は、色鮮やかで力強い筆致が特徴のポスト印象派の画家です。
彼の作品の中でも特に有名なのが、1889年に描かれた『星月夜』(The Starry Night)です。
この絵には、渦巻くような星空と、静かな村の風景が描かれており、宇宙の広がりと彼の内面の感情が交差しているように見えます。
『星月夜』が生まれた背景
この作品は、ヴァン・ゴッホがフランス南部のサン=レミ=ド=プロヴァンスにある療養所に入院していたときに描かれました。
彼は精神的に不安定な状態が続いていましたが、その中で夜空を見つめ、宇宙の壮大さに心を奪われました。
『星月夜』は、彼が療養所の部屋から見た景色をもとに創作されたものです。
実際の夜空とは違い、絵の中の星は大きく渦を巻いており、動きのある筆使いが特徴です。
これは、ヴァン・ゴッホの独自の感性が生んだものであり、彼の感情の高ぶりや宇宙への憧れが表れていると考えられています。
「宇宙」を感じる表現
この絵の最大の特徴は、うねるような星空です。
ヴァン・ゴッホは、天体の動きをただ再現するのではなく、まるで宇宙そのものが生きているかのように描きました。
青と黄色の強いコントラストは、夜空の静けさと躍動感を同時に感じさせます。
また、近年の研究では、ヴァン・ゴッホの描いた渦巻く星空の模様が、実際の星雲や乱流(流体の渦の動き)とよく似ていることが指摘されています。
彼が科学的な知識を持っていたわけではありませんが、直感的に宇宙の広がりをとらえていたのかもしれません。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)に展示
『星月夜』は現在、アメリカのニューヨーク近代美術館(MoMA)に所蔵されています。
世界的に人気のある作品で、多くの観光客がこの絵を一目見ようと訪れます。
4.チェスリー・ボンステルの『土星から見たタイタン』(20世紀中頃)
チェスリー・ボーンステル
(Chesley Bonestell、1888-1986)
『タイタンから見た土星』
(Saturn as seen from Titan) pic.twitter.com/mO2Dwc1c5k— 絵画の名前 (@artstitle) November 10, 2024
未来の宇宙旅行を描いた「宇宙芸術の父」
チェスリー・ボンステル(1888-1986)は、20世紀を代表する宇宙画家であり、「宇宙芸術の父」と呼ばれています。
彼の作品は、まだ宇宙探査が本格化する前の時代に描かれたものですが、科学的な考証に基づいたリアルな表現が特徴です。
その代表作の一つが『土星から見たタイタン』です。
宇宙をリアルに描いた先駆者
ボンステルはもともと映画の特殊効果デザイナーとして働いていましたが、その後、科学的な知識を活かしてリアルな宇宙風景の絵を描くようになりました。
彼の作品は、当時の天文学者やNASAの科学者たちからも高く評価され、後の宇宙探査計画にも影響を与えました。
『土星から見たタイタン』は、まるで実際に土星の衛星タイタンに降り立ち、そこから土星を見上げたような視点で描かれています。
まだ誰も行ったことのない場所を、科学的な予測をもとにリアルに描いた点が、この作品の魅力です。
天文学と芸術の融合
この作品には、ボンステルが最新の天文学の知識を反映させていたことが分かります。
土星の輪がどのように見えるか、タイタンの地表はどのようになっているのか――当時の科学者たちの研究をもとに、詳細に描かれています。
特に、土星の輪が横に広がり、青みがかった色合いで表現されている点が印象的です。
これは、タイタンの大気や光の屈折を考慮したリアルな描写とされています。
後に宇宙探査機がタイタンを訪れた際、実際にボンステルの描いた風景に近いことが分かり、彼の先見性が証明されました。
宇宙探査の未来を予言した画家
ボンステルの作品は、「未来の宇宙探査がどのようなものになるのか」を予測するものでもありました。
彼の描いた宇宙の風景は、のちにNASAの宇宙開発計画に影響を与え、宇宙飛行士や科学者たちのインスピレーションとなったのです。
影響を受けた人々
ボンステルの作品は、映画やSF小説にも大きな影響を与えました。
例えば、スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』のビジュアルデザインや、数多くのSF小説の挿絵に、彼のスタイルが反映されています。
まさに「宇宙を視覚的に表現した先駆者」と言えるでしょう。
ボンステルの作品はどこで見られる?
彼の作品は、現在も世界中の科学博物館やギャラリーで展示されています。
また、NASA関連のイベントや書籍にも多数収録されており、ネット上でも見ることができます。
未来の宇宙旅行を夢見た芸術
ボンステルの『土星から見たタイタン』は、まだ人類が宇宙に行く前の時代に描かれました。
しかし、彼の想像力と科学的な知識が融合し、本当にタイタンの地表に立ったような気分にさせてくれる作品です。
今日、私たちは実際に宇宙探査機を送り、土星やその衛星の写真を見ることができます。
しかし、まだ見ぬ未来を夢見ていた時代に、ボンステルはすでに「宇宙を旅する夢」を絵画として描き出していたのです。
NASAアートプログラムとアンディ・ウォーホル、ノーマン・ロックウェル(1962年以降)
宇宙をアートで記録する――NASAアートプログラムとは?
1962年、NASA(アメリカ航空宇宙局)はあるユニークなプロジェクトを立ち上げました。
それが「NASAアートプログラム」です。このプログラムでは、宇宙開発の歴史や未来のビジョンを、著名なアーティストたちに絵画として記録してもらいました。
宇宙開発といえば、科学者やエンジニアの仕事というイメージがありますが、NASAは「宇宙探査は科学だけでなく、人類の文化や芸術にも影響を与えるべきだ」と考えたのです。
その結果、アートの力を使って、ロケットの打ち上げや宇宙飛行士たちの活動を描く試みが始まりました。
参考サイト:NASAアートプログラム
アンディ・ウォーホルとノーマン・ロックウェルも参加!
NASAアートプログラムには、アメリカを代表する有名なアーティストたちが参加しました。その中でも特に有名なのが、アンディ・ウォーホルとノーマン・ロックウェルです。
- アンディ・ウォーホル(1928-1987):ポップアートの巨匠で、マリリン・モンローやキャンベルのスープ缶をカラフルに描いたことで有名。彼は、アポロ計画のポスターアートを手がけるなど、NASAのプロジェクトにも関わりました。
- ノーマン・ロックウェル(1894-1978):アメリカの日常を温かいタッチで描いたイラストレーター。彼は、アポロ11号の宇宙飛行士たちの肖像画を制作し、歴史的な瞬間をアートとして残しました。
宇宙とアートの融合
NASAアートプログラムで制作された作品は、「宇宙開発の夢や希望を表現するもの」として、多くの人々にインスピレーションを与えました。
例えば、ロケットの発射シーンや宇宙飛行士の姿を描いた作品には、力強い筆致や鮮やかな色彩が使われており、科学的な正確さ以上に、「人類が宇宙へ向かうロマン」が込められています。
また、ウォーホルの作品では、彼独特のポップな色使いで宇宙開発が表現されており、「未来は明るく、ワクワクするものだ」というメッセージが感じられます。
作品はどこで見られる?
NASAアートプログラムの作品は、ワシントンD.C.にあるスミソニアン航空宇宙博物館や、NASAの公式サイトなどで見ることができます。
また、一部の作品は特別展やオンラインギャラリーで公開されることもあります。
宇宙を描くことで、未来を想像する
NASAアートプログラムの最大の目的は、「科学と芸術をつなげること」でした。
ロケットの設計図や科学論文だけでは伝えられない「宇宙開発の夢」を、アートを通して多くの人々に伝えたのです。
現在も、宇宙をテーマにしたアートは多く制作されており、デジタル技術を使った新しい表現方法も生まれています。
宇宙を描くことは、未来を想像し、宇宙への憧れを形にする手段なのかもしれません。
まとめ
宇宙をテーマにした絵画は、時代を超えて多くの芸術家たちによって描かれてきました。
宇宙は、私たちにとって未知の世界ですが、芸術を通じてその神秘やロマンを感じることができます。

今回紹介した作品をきっかけに、宇宙とアートの関係に興味を持ってもらえたら嬉しいです。