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「右利き・左利き」は人間だけじゃない?動物にもある“利き手”のひみつ

いきもののふしぎ

私たちは日常の中で「右利き」や「左利き」という言葉をよく耳にします。でも、これは人間だけの特徴だと思っていませんか?

フクロウ博士
フクロウ博士

実は――動物たちにも“利き手”があるんです。

犬がオヤツを取るときに出す足、猫がボールを転がすときに使う前足、オウムがエサをつかむときの足。それぞれに「使いやすい方」が決まっていることが、科学的に確かめられています。

こうした“利き手”や“利き足”の違いは、脳の働きが左右で異なること(側性化)と深く関係しています。そして驚くことに、その傾向は哺乳類だけでなく、鳥や魚にも見られるのです。

ソラ
ソラ

魚にまで利き手があるなんて!びっくり。

フクロウ博士
フクロウ博士

この“利き”というしくみは、生き物たちがよりすばやく、正確に行動するための大切な特徴なんです。

1. 動物の“利き手”ってどうやってわかるの?

ソラ
ソラ

「動物にも利き手がある」と言われても、どうやって確かめるの?

フクロウ博士
フクロウ博士

人間のように文字を書いたり、道具を使ったりするわけでもないのに、科学者たちは行動観察という方法でその“くせ”を見つけています。

犬や猫の「利き足」を調べる方法

たとえば犬の場合、次のような行動を何十回も観察し、どちらの前足をよく使うかを記録します。

こうした方法は「パウ・プレファレンス(paw preference)」と呼ばれます。

  • おもちゃを前足で押さえるとき
  • ドアを引っかくとき
  • 食器を押すとき

猫でも同様で、おもちゃを取り出すときなどの前足を繰り返し記録すると、左右どちらを多く使うかがわかります。

研究では、多くの猫に“利き足”が見られ、オスは左利き、メスは右利きの傾向が報告されています(後で出典をまとめます)。

サルの道具使いから見る“利き手”

チンパンジーなどの霊長類では、木の枝でアリをすくい出す「ターマイト・フィッシング」や、ナッツ割りなどの道具使用の場面で利き手の差が観察されます。

ある課題では集団全体として右手に偏る傾向も見つかっています。

つまり、「利き手」は人間だけの特徴ではなく、動物たちの行動の中にも自然に現れる“生物としての個性”なのです。

2. 犬や猫にも“利き手”がある?

動物の中でも、犬や猫は私たちの身近な存在です。「うちの子にも利き手があるの?」と気になる人も多いでしょう。

犬の“利き足”は性格にも関係している?

犬の前足の使い方を調べた研究によると、犬にも右利き・左利きがあることが分かっています。

しかも、半分近くが右利き、もう半分が左利きで、どちらにも偏っていないようです。

つまり、犬の世界では「右利きが主流」というわけではないのですね。

さらにおもしろいことに、利き足と性格の傾向が関係しているという研究もあります。

たとえば、左利きの犬は少し警戒心が強く、右利きの犬はやや社交的な傾向を示すという報告もあります。

もちろんすべての犬に当てはまるわけではありませんが、「性格の違いが行動にもあらわれる」という点は興味深いですね。

猫の“利き足”はオスとメスで違う?

猫にもはっきりとした“利き足”があることがわかっています。イギリスやアイルランドで行われた研究では、次のような傾向が報告されています。

  • オスの猫は左利きが多い
  • メスの猫は右利きが多い

これは、人間の脳の“左右差”と似たような働きをしているのではないかと考えられています。

左右の脳がそれぞれ少しずつ異なる役割を持っていて、そのバランスが「利き足」にも影響している可能性があるのです。

おうちで試してみよう!

もし家に犬や猫がいるなら、ちょっとした観察実験をしてみるのも面白いですよ。たとえば次のような行動を何度か観察してみましょう。

  • おやつを入れた箱を前に置いて、どちらの足で触るか
  • ドアを開けようとしたとき、どちらの前足を使うか
  • 座るときに、どちらの足から動かすか

こうした観察を続けると、その子の“利き足”が見えてくるかもしれません。「うちの子は右利きだ!」なんて発見があると、ちょっとワクワクしますね。

次は、鳥や魚のように「手のない動物」にも“利き”があるのかを見ていきます。

3. 鳥や魚にも“利き”があるって本当?

犬や猫のように「手」や「足」がある動物ならイメージしやすいですが、羽やヒレを使う鳥や魚にも“利き”があると聞くと、ちょっと意外ですよね。

けれども、研究によると――鳥や魚にも左右のくせがあることが分かっています。

鳥の「利き足」と「利き目」

鳥の中でも特にわかりやすいのは、オウムやインコです。

彼らは物をつかむとき、どちらの足を使うかがはっきり分かれています。

ある研究では、オウムの約8割が左足でエサをつかむという結果が出ています。

また、鳥は「目の使い方」にも左右のくせがあります。

たとえばヒヨコを観察すると、右目はエサを探すとき、左目は敵などの危険を見張るときに使う傾向があるそうです。

これは、脳の右半球と左半球の役割分担が関係していると考えられています。

魚の“利き”は泳ぎ方や避け方に出る

魚にも、“利き”があるといわれています。

たとえば金魚やシクリッドなどを観察すると、障害物を避けるときにいつも同じ方向に曲がる個体が多く見られます。

また、群れで泳ぐ魚たちも、集団として右に回りやすい/左に回りやすい傾向があるのです。

これも脳の働きが左右で違うことが影響していると考えられており、「体の片側の神経が少し優先的に使われる」という仕組みが関係しています。

つまり、“利き”のような左右のくせは、手足を持つ動物だけでなく、ヒレを使って泳ぐ魚にも存在するのです。

フクロウ博士
フクロウ博士

利き手(または利き足・利き目)は人間だけではなく、地上でも空でも水中でも見られる、生き物共通の特徴なのです。

ソラ
ソラ

魚にも“利き”があるんだ! ちょっとびっくり!

フクロウ博士
フクロウ博士

そうですね。正確には“利き”というより、左右の使い方に違いがあるということです。脳の左右が少しずつ異なる働きをしているため、その差が行動にも表れているんですよ。

ソラ
ソラ

へぇ〜! じゃあ、人間の右利きとか左利きも、脳の働きが関係してるんだね?

フクロウ博士
フクロウ博士

その通りです。次はその“脳との関係”をもう少し詳しく見てみましょう。

4. 動物の「利き」の正体:脳の左右差(側性化)

これまで見てきたように、動物にはそれぞれ“利き”があります。

では――そもそも、どうして利き手(利き足)ができるのでしょうか?
鍵を握るのは「脳の左右のはたらきの違い」です。

人間の脳は、右と左で少しずつ役割が異なります。

  • 左脳: 言葉を話したり、計算をしたり、細かい動作(利き手など)をコントロールする。
  • 右脳: 空間の認識や感情の理解、全体を把握するのが得意。

このように左右で機能が分かれていることを「脳の側性化(そくせいか)」といいます。

そして、利き手や利き足は、この脳の側性化が行動に現れたものなのです。

生き物共通の機能「脳の側性化」

この特徴(脳の側性化)は、人間だけでなく多くの動物にも共通しています。

たとえば鳥では、右目(情報処理は主に左脳)でエサを探し、左目(情報処理は主に右脳)で敵を警戒します。

また、魚でも片方の脳が“逃げる動作”を、もう片方が“攻撃の判断”を担当するなど、生きるために効率よく動く「しくみ」が作られていることがわかっています。

情報処理を効率化する進化の知恵

では、なぜ左右に分かれたほうがいいのでしょうか?

理由のひとつは、情報処理のスピードを上げるためだと考えられています。

もし両方の脳がまったく同じ働きをしていたら、体の動きや判断がぶつかってしまい、反応が遅れてしまいます。

そこで、進化の中で「片方の脳が少し得意な仕事を担当する」ようになり、役割を分担しました。

こうして、行動の中に“利き手”や“利き足”といった左右のくせが現れるようになったのです。

言いかえれば、利き手は脳が効率的に働くための進化の証なんですね。

次は、「左利きの動物は珍しいのか?」――その割合や傾向について見ていきましょう。

5. 左利きの動物は珍しい?その割合と傾向

人間と動物の「利き」の傾向

人間の世界では、右利きが約9割、左利きが約1割といわれています。では、動物の世界でも「右利きが多い」のでしょうか?

実は、動物の「利き」(左右のくせ)の傾向は、種によって大きく異なります

動物のグループ 利き手の傾向
チンパンジー、ゴリラなどの霊長類 右利きが多い
犬や猫 右利きと左利きがほぼ半々
オウムやカンガルー 左利きが多い

つまり、動物全体で見ると「右利きが主流」というわけではなく、それぞれの動物が生活スタイルや体の構造に合わせて「利き」を持っているのです。

カンガルーはまさかの「左利き代表」!?

オーストラリアで行われた研究では、野生のカンガルーの多くが左前足を優先的に使うと報告されています。木の葉をつかんだり、顔をなでたりするときも、自然と左足が前に出るのです。

この結果は、哺乳類としては珍しく「群れ全体で左利きが優勢」という興味深い例として、広く知られています。

なぜ左利きが存在するのか?

では、なぜ左利きの動物がいるのでしょうか?

これは、動物がより効率的に生きるために、脳の働き方のバランスによって決まっていると考えられています。

たとえば、右脳が感情や危険察知を担当している場合、その右脳がコントロールする左側の体を多く使う方が、危険な状況に素早く対応できて有利になる――そんな進化上の理由があるのかもしれません。

つまり、左利きは人間のように「まれな例」ではなく、その動物にとって最も動きやすい自然な形だと言えるのです。

まとめ:利き手は「脳の進化」がくれた生き物共通の個性

私たちは「利き手」を人間特有のものだと思いがちですが、動物たちの行動にも明確な「左右のくせ(利き)」があることがわかりました。

鍵は「脳の側性化」という共通の仕組み

  • 身近な動物から水中生物まで: 犬や猫の利き足はもちろん、オウムの利き足・利き目、さらには魚の泳ぎ方にまで、この左右のくせは見られました。
  • 全ての根源は脳: この「利き」の正体は、脳の右半球と左半球がそれぞれ異なる役割を持つ「脳の側性化」という仕組みです。片方の脳が特定の情報処理や動作を専門に担当することで、より速く、正確な判断や行動が可能になります。

利きは生存戦略の証

利き手や利き足は、単なる個性ではありません。

動物が危険を察知する、エサを探す、群れで動くといった生存に必要な行動を、最も効率的に行うための「進化の知恵」なのです。だからこそ、特定の種(カンガルーなど)では、人間とは違って左利きが主流になることもあります。

利き手(利き足・利き目)は、地上でも空でも水中でも見られる、生き物共通の「最も動きやすい自然な形」

この共通の仕組みを知ることで、動物たちの行動観察がさらに興味深く、面白くなるでしょう。

ソラ
ソラ

動物の“利き手”って、どの生き物にもちゃんと理由があるんだね。

フクロウ博士
フクロウ博士

そうですね。利き手の違いは偶然ではなく、脳の構造や神経の働きに由来しています。生き物が効率よく動くために、長い時間をかけてできあがった仕組みなんです。

ソラ
ソラ

なるほど。右とか左っていうより、“どっちの脳がどんな仕事をしてるか”なんだね。

フクロウ博士
フクロウ博士

その通りです。左右の脳が少しずつ役割を分け合うことで、判断が速くなり、行動も正確になります。それが結果的に“利き手”という形で表れているんです。

ソラ
ソラ

うーん、そう聞くと、動物の行動ってすごく合理的にできてるんだね。

フクロウ博士
フクロウ博士

ええ。生き物の“くせ”や“特徴”には、進化の過程で生まれた理由が必ずあります。そこに科学の面白さがあるんですよ。

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